スタートレックの「正史」って?


「〇〇」はスタートレックの正史かどうか、みたいな議論をネットで見かけるけど、意外と意味を分からずに使っている人も多そうなので整理しておく。

「正史」は英語では「Canon」と呼ばれるが、元は聖書の「正典」、つまり教会が正式に認めた文書を指す言葉だ。スタートレックの場合、著作権者がスタートレックシリーズの一部だと認めた「公式作品」といった意味合いになる。要するに「正史」とはパラマウント、あるいはCBSが制作した映像作品、つまりスタートレックTVシリーズと映画シリーズを指す。

原作者ジーン・ロッデンベリーが生きていたころは、彼が正史かどうかを判断していた。そのため、彼が出来栄えに不満を抱いた「まんが宇宙大作戦」や映画など一部の作品を正史に含めないとコメントしたこともあった(ロッデンベリーは評価の高い映画スタートレック2も軍事色が強過ぎると批判していた。もしDS9の後半を見たらブチ切れそうな気がする)。

しかし彼の死後はおおむね、正史=著作権者が作るTVシリーズと映画、という解釈で一貫しており、かつては正史に含まれなかったまんが版も含むようになった。一方、「Star Trek: New Voyages」や「Star Trek: Continues」のようなファンの自主制作映画はたとえ映像作品でも「正史」には含まれないし、「Axanar」のように調子に乗り過ぎると裁判沙汰になる。
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本題から脱線すると、国を問わずクリエーターは基本的に同人活動に甘い。なぜなら、創作をおこなう人も最初からオリジナルの作品をゼロから作れるとは限らない。アマチュア時代、好きな作品の二次創作から創作活動をはじめて、やがてプロの作家になる人もたくさんいる。

だから、本来は違法なんだけれど、ファンの活動だから大目に見よう、というのが大半の作者のスタンスだ(スタートレックネットワークジャーナルによると、ロッデンベリーはファンの同人誌を買い込んで、資料として番組スタッフに配っていた)。

しかし大目に見るにしても限度がある。原作を冒涜するような内容だったり、金儲けに走り過ぎると、イエローカードやレッドカードが出るのは当たり前だ。脱線終了。
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ややこしいのが、著作権者の許可をとって作られる、小説とかコミックとかの関連商品だ。これらはパラマウントなりCBSから商品化の許諾を得ているため、正史と思い込んでいるファンもいるが、「基本的に」正史には含まれない。

下品な例えをすると、おもちゃメーカーがスタートレック〇〇周年記念で金メッキをしたカーク船長のフィギュアを作るとする。当然、売るときにはパラ山なりCBSの許可をとる。でも許可をとったからといって、金色のカーク船長はスタートレックの世界で実在する、これは公式設定だ、という扱いにはならない。

乱暴にいえば、小説やコミックの扱いもそれと一緒。小説家や漫画家が新しい話や設定を作っても、正史にはならないのだ。ただし、TVや映画の脚本家がそうした小説を読んで気に入り、それを参考にして脚本を書くこともある(スターシップコレクションのクリンゴン関連の記事にそういう話があったような)。

なお、「基本的に」正史には含まれないと書いたのは例外があるからで、いくつかの条件を満たしたものは「半ば公式」つまり正史に準じる資料として扱われている。この条件としては
・ベースとなる映像作品と同時期に刊行されている
・映像作品の制作スタッフが執筆、監修している
などをすべて満たしている必要がある。

具体的には番組スタッフのオクダ夫妻が執筆し、日本語版も出版された「スタートレックエンサイクロペディア」、ジーン・ロッデンベリーが執筆した映画第1作のノベライズ「宇宙大作戦スタートレック」、スタートレックシリーズのプロデューサー、ジェリ・テイラーが執筆したジェインウェイ艦長の生い立ちを描く小説「Mosaic」などが挙げられる。

 また、ディスカバリーの小説やコミックもこれらの条件を満たすため、正史に準じる扱いになるだろう。